
ここで時は遡り、ゴルベリアス王とシオン王子が決戦に向けて密かな決意を固めていた、その3ヶ月前――。
ファルコン自由解放同盟は、シーガイア王朝首都アストレーゼの最終防衛線である、ゲッセマネの砦を攻略していた。
だが、その勝敗は誰の目から見ても明らかだった。4ヶ月間に渡る同盟軍の圧倒的な物量と兵力を全面に押し出した猛攻撃の前に、砦の城壁は壊滅的な打撃を受け、当初2000人いた兵も次々と倒され、今では200人まで減少していた。その上、食料や物資を運ぶ補給線を完全に絶たれ、砦の中に残っていた兵達も兵糧攻めにあい飢餓状態に陥っていた。
総指揮官であったバーナード将軍は、3日前、砦の窓から兵を指揮している隙に同盟軍の弓矢の狙撃を受けて死亡。
もはや砦に残っているシーガイア兵達には自決するか、玉砕するかのどちらかの選択肢しか残ってないように思えた。
しかし……。
ゲッセマネの砦の地下深く、その深奥部には巨大な大広間が用意されていた。
荷物などの類が一切置かれてないところをみると、物置ではない。かといって、この広大な地下室にはそれ以外の用途はないように見えた。
そう、この世に『魔法』というものが存在しなければ……。
その部屋の床には繊細な文様の魔法陣が大きく描かれ、異様な雰囲気が地下室全体を包み込んでいた。
そして突如。
魔法陣から目がくらむほどの橙色の閃光がほとばしり、光の中から重厚な甲冑を身につけた壮年の男と、数十人の騎士達が現れた。
その者達は、すかさず魔法陣の外に出ると、再び魔法陣は橙色の閃光を輝かせ、大勢の兵士達が現出した。その後も魔法陣は幾度となく橙色の閃光をほとばしらせ、その度に光の中から大量の兵が送り込まれてくる。
ようやく魔法陣が光を放つのをやめた時には、巨大な地下室は完全武装した兵達で隙間もないほど埋め尽くされていた。
「第1回目の転送で送られた兵は全員揃ったようだな?」
最初に魔法陣から現出した壮年の男は、兵士達で一杯になった地下室全体をぐるりと見回し、側近の騎士グインサー・ウェイドに聞いた。
「ハッ!後に続く5回の転送で、2500人全ての兵が転送終了となります、その次は、武器と食料、水、軍馬の転送を待つばかりです」
「そうか……」
壮年の男の名はジキド・ザイボス。
同盟軍に殺害された前任者、バーナード・グレアムに代わって送り込まれた将軍である。
シーガイア王朝にその人ありと謳われたほどの猛将で、今年40歳になるが、全身からみなぎる気迫は衰えを感じさせない。若いころ視力を失ったという右目には黒い眼帯をしていたが、残った左目からは鋭い眼光が光っていた。無駄肉がひとつもない骨張った顔は、威厳すらある。鍛え抜かれた肉体の上に、見事な彫刻が施された銀の鎧に漆黒のマントを身につけていた。
「グインサー、ここにいる兵達には砦の講堂に集まるよう伝えておけ。そしてあと4回の転送が全て終わり次第、知らせに来い。わしは上に行って砦全体の様子を視察してくる」
「ハッ!」
ジキドは、騎士グインサーにそう言い残すとマントをひるがえし、颯爽と地上に出る階段を昇っていった。
予想以上に壊滅的な打撃を被っている砦の現状を目の当たりにしたジキドは、沈痛な面持ちをしながら講堂への足を運んでいた。特に城壁の損傷は酷く、ほとんど砦が剥き出しの状態であった。城門も半分以上打ち壊されていた。
一般に、要塞守備には攻撃する側の半分以下の兵力で、充分長期間の防衛に耐え得るとされている。
だが、それは堅固な城壁あっての話だ。これでは転送してもらった2500人の兵力も、よほどうまく指揮し、運用しない限りは、反乱軍の圧倒的物量によってすぐに陥落させられてしまうだろう。
“わしの読みが甘かった。いくら砦から首都への情報が遮断されているとはいえ、ここまで壊滅的にやられているとは!こんな事では、重い鎧をまとった重装歩兵を大量に転送してもらった方が、まだ壁代わりにできただろうに!”
しかし、それももう遅かった
側近グインサーの報告によると、すでに兵達をはじめとした全ての物資の転送が完了し、講堂に集まっているとのこと。
“だが、ここでわしが兵達の意識を高めなければ、シーガイア王朝に明日はない”
その思いを胸に、ジキドは崩れかけた講堂の扉を開けた。
広々とした講堂内には、兵達が所狭しと詰めかけていた。それでも転送された全ての兵が講堂に入りきらなかったのはやむを得ない事だろう。2500人全てを収容するだけの余裕はこの講堂にはない。だが、ここにいる兵達の士気を鼓舞することができれば、それは他の兵達にも伝播し、自分の言葉が広まってくれることをジキドは確信していた。
ジキドが壇上に立つと、講堂に集まった兵達は一瞬にしてシンと静まりかえった。そしてジキドはぐるりと周りを見回すと、腹の底から緊張感あふれる声で兵士達に訴えかけた。
「勇敢なるシーガイアの騎士達よ!最初に言わせてもらうが、これが我々に残された最後の機会である!
ゴルベリアス陛下の魔力は、度重なる『転移の術』の乱用で、もはや残りわずかになっておられるのは皆も知っておろう!それを、ご自分の体を顧みず、ここまで『転移の術』を酷使して、我々を百数キロ離れたこのゲッセマネの砦まで転送してくださったのだ。これはひとえに、ゴルベリアス陛下が我らに多大な信頼を寄せられている事に他ならない!
前任の総指揮官、バーナード・グレアム将軍は、不覚にも敵の矢に射貫かれて戦死したと聞いておる。
以後はッ!このジキド・ザイボスがゲッセマネの砦の総指揮官だ!
このゲッセマネの砦は、首都アストレーゼにとっての最終防衛線であり、なんとしても死守せねばならん最後の砦である!
いいかっ!シーガイア王朝の興亡は、この一戦にかかっておるのだ!ここを一日でも長く持ちこたえさせれば、首都アストレーゼを立て直す光明が必ず見えてくる!最後の一兵になるまで守り抜き、戦い抜く意地を見せてくれ!さすれば至高神ザフネスは我らに味方してくれるであろう!」
シーガイア王朝の兵士達及び騎士達は一斉にうおーっと歓声をあげ、その声は講堂全体を揺るがした。
「ジキド・ザイボス将軍閣下万歳っ!!シーガイア王朝に栄光あれっ!!」
ジキドは、ゴルベリアスから直接賜った、豪奢な意匠が施された儀礼用の剣を鞘からスラリと抜き出し、天高く掲げた。
「我らにザフネス神の加護があらんことをッ!」
ジキドのその動作に続いて、講堂に集まった者達全員が自らの剣を天にむかって掲げ、一斉にならった。
「我らにザフネス神の加護があらんことをッ!!」
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ゲッセマネの砦から百数メートル離れた場所に、ファルコン自由解放同盟・ゲッセマネ方面軍の宿営地はあった。
行軍時、街や村で宿を借りられない場合、このように天幕(テント)を張って宿営地を作るのが普通であった。特に今回のような城攻めや砦攻めでは、長期間同じ場所で足止めをくらう場合が多く、宿営地の果たす役割は大きい。
数え切れないほどの天幕が林立しているのは、設営するのが木の杭を地面に突き立てるだけの簡単なことにつきるからだ。
そして宿営地のすぐ外に兵達が直立姿勢のまま待機していた。
その数、約5千。
一部の偵察隊や伝令兵を除いて、ゲッセマネ方面軍の全てがここに集まっている。
司令官天幕の中のひとつでは、ゲッセマネ方面軍の将軍2人が、もうすぐ陥落するであろう砦の事で話を弾ませていた。司令官天幕というだけあって、かなり広い間取りをとってあり、机や椅子などの調度品も置かれている。
「そう……ついにゲッセマネの砦は白旗をあげましたか」
そう言って、机に備え付けられた木製の椅子をギシッといわせ、レティシア・ビュネーンは満面の笑みを浮かべた。
「はい、レティシア様。ゲッセマネの砦は完全に我らが包囲し、城壁も破壊しました。敵兵も残り僅かです。その兵達も、長い兵糧攻めで飢餓状態に陥っていると聞きます。敵が降伏するのも当然でありましょう。これもみなレティシア様の采配の賜物です」
片膝をつき、うやうやしく頭を垂れているショートヘアの赤毛の女性は、ヴァハ・フレイムである。生真面目な声でレティシアの有能さを褒め称えた。
「フフ、そんな事はありませんよ、ヴァハ。顔を上げて。私はただ、あなた達前線の将軍や兵達の配置を指示しただけ。戦いを勝利に導いたのは、前線で戦い抜いてきたあなた達なのですから、もっと胸を張ってもよいのですよ」
レティシアは、そう言って優しく微笑んだ。
彼女は今年で20歳を迎える。その美貌にはますます磨きがかかり、眩しくすらあった。
ディアナ王国の王女にしか着用を許されない、月の紋章が染め抜かれた紺色のマントを羽織るその姿は、2年前とは比べものにならないほどの気品と威厳を備えていた。
「ありがたきお言葉。身に余る光栄であります」
そう言って、ヴァハは顔を上げた。
彼女も2年前と比べ、格段に剣の腕を上げており、今では同盟軍内でもかなうものはおらず、戦場ではその赤い髪をなびかせる姿から『炎の騎士』の異名を欲しいままにしている剣士にまで成長を果たしていた。
彼女たち2人は、今ではただの将軍ではなく、いにしえの時代から幾度となくファルコン半島を救った十二人の英雄――十二神将の名にちなんで同盟軍の全兵から尊敬の念を込まれて『同盟軍十二神将』と呼ばれていた。この称号は、同盟軍内では単なる指揮官とは一線を画すものであり、人々が真の英雄と崇め、武勇と聡明さを兼ね備えた者にしか与えられないもので、今や10万人の兵力を擁するファルコン自由解放同盟の中でも12人しか存在しない。
だからこそ、ヴァハとレティシアは、シーガイア王朝の最終防衛線である、ゲッセマネ方面軍の総指揮権を与えられているのだ。
「4ヶ月……長いものでしたね。このゲッセマネの砦が我ら同盟軍のものになれば、シーガイア王朝の首都アストレーゼは目と鼻の先になる。私達は最大限の補給を受けつつ、いつでも首都アストレーゼに対して攻撃を加えられるというわけですね……リューベンも、この事を知ったら、さぞ喜ぶでしょう」
「さようでございましょうな。私もリューベンの到着を待ち遠しく思います」
ヴァハは、レティシアの言葉にうなずいた。
現在、ファルコン自由解放同盟の盟主、リューベン・スターロードはこの場にはいない。
すでにシーガイア王朝首都アストレーゼを包囲している将軍達との打ち合わせのために、配下150騎を引き連れてこの地を離れている。その間、ゲッセマネの砦攻略戦の指揮は、代理としてレティシアが引き継いでいるのだ。
すでにリューベンがこの地を離れて6日も経っているから、もうすぐ帰ってくるだろう。それまでにゲッセマネの砦をレティシア達の手で占拠できていたら完璧である。
「さて、ではその白旗をじかにこの目で見てみるとしましょうか」
レティシアはそう言って、椅子から腰を上げた。
その時、だしぬけに一人の若い騎士がレティシアの天幕に挨拶もなしに、転がり込むように入ってきた。腕には、何十本もの矢が突き刺さった大型の盾を装備している。
「ネヴァン!?」
2人の女将軍は、同時に声をあげた。
「おい、大変だぞっ!ゲッセマネの砦が白旗を取り下げ、攻撃を再開した!外は矢の雨だ!うかつに外には出るな!」
その唐突な鬼気迫る言葉に、レティシアとヴァハは目を丸くして唖然とした。
「なんですって!?ネヴァン、どういう事ですか?」
ネヴァンと呼ばれた鎧姿の騎士は、金髪の髪を後方に撫でつけており、彫りの深い気品漂う顔立ちをしているのだが、相当急いでこの事を知らせに来たのだろう。全身汗だくで、肩でゼイゼイと息をしている。天幕に備え付けられている、革製の水筒をひっつかんでゴクゴクと喉を鳴らしてあっという間に飲み干すと、口元を腕でぬぐいながら答えた。
「俺にもよくわからん。だが、不思議なことにゲッセマネの砦から、どんどん兵が湧くように出てきているんだ!」
「バカな!砦にはもう僅かな兵しかいないはずだぞ!弓矢といった武器もいいかげん、底をついてるはずだ!」
ヴァハは、あまりにも不可解な事態にネヴァンに詰め寄った。
ネヴァンも同盟軍十二神将の一人であり、シーガイア王朝に滅亡させられたニュクス王国の王子という非常に高貴な身分なのだが、ヴァハはあくまで対等な口をきく。
平民出身といっても、ヴァハにとって心底礼儀を払う態度をとるのは、あくまで今でもレティシアとエクスだけなのだ。
「だから不思議な事だと言っているッ!疑うのなら、自分の目で確かめてみたらいい!しかし、慎重にな」
ネヴァンは、天幕の入り口の布をそっと腕でどかし、砦の屋上や窓を指さしてレティシアとヴァハに見せた。
凄まじい数の弓兵が、砦の屋上や全ての窓から身を乗り出し、ロングボウ(長弓)や長距離射程の強化型ボウガンを使って矢を放ちまくっている。文字通り外はネヴァンの言うとおり『矢の雨』の様子を呈していた。油断していた同盟軍の天幕や外にいた兵士達は次々と射貫かれ、秒単位で人が死んでいく。それは死を喚ぶ雨ともいえた。
ヴァハがその光景を見て愕然としている間、瞬時にレティシアは迅速な指示を下した。
「ヴァハ、ネヴァン!一時、全軍に後退命令を!これは、ただごとではないわ!」
「わかっている!」
「でも、外は矢の雨よ。どうやって他の天幕にいる指揮官に伝えるの?」
ヴァハの問いに、ネヴァンが答えた。
「こいつを使うのさ」
ネヴァンは、ちょっと得意げにカイトシールドと呼ばれる縦長の大きな盾をヴァハに渡した。
「こいつは縦幅が12mもある。こいつでうまいこと矢を弾きながら、他の天幕まで走って、他の指揮官達に撤退命令を出すんだ」
「そんなにうまくいくものなの?」
そんなヴァハの言葉に、ネヴァンは少しムッとした表情を見せた。
「なに言ってんだ、これを使ってこの天幕まで来た俺が『生きた証人』だろうが。でも気をつけろよ。この盾は全身を覆う程じゃないからな。矢の軌道を読む動体視力がものをいう」
「このあたしにそういう事を言うっての?」
「おっと、これは『炎の騎士』の異名をとるヴァハ殿には失礼だったかな?」
そう言って、ネヴァンは白い歯を見せてニッと笑ってみせた。
本当は、到底笑っていられるような場合ではないのだが、ここで取り乱してみせても何にもならない。
それにネヴァンには、こういう時に仲間の緊張を解きほぐす才能になぜか長けていた。人をホッとさせるのが上手なのである。
「じゃ、いくぞ!」
「こっちは、いつでもいいよ!」
「レティシアは、ここにいろ!敵の弓矢はこの司令官天幕までは距離が遠すぎて届かないから安全だ!」
ネヴァンは、天幕の入り口の布をたくし上げたままレティシアの方を振り返って言った。
「わかりました。二人とも、頼みましたよ!」
「任せておけって!それ!」
ネヴァンが思い切って外に踏み出すと、ヴァハもそれに続いた。
外は同盟軍兵士達の怒号と悲鳴の嵐に包まれていた。
司令官天幕を出て、しばらく砦の方に向かって走ると何百何千本もの数の矢が風を切り裂くようにして飛んできた。しかし、そこはさすがに2人とも同盟軍十二神将と呼ばれるだけのことはあり、全ての矢を盾で弾き防ぎながら、他の天幕めがけて走っていった。
「反乱軍どもめ、思い知ったか」
ジキドは、砦の屋上から矢の雨の総攻撃を受け、右往左往している反乱軍の兵達を見つめながら、吐き捨てるように言った。
とりあえず、これで反乱軍は一時撤退せざるをえないだろう。
だが、ジキドにとって最も気になることが脳裏をかすめ、大声で側近の騎士を呼びつけた。
「グインサー!」
即座に側近の騎士グインサーが駆けつけ、片膝をついてひざまずいた。
グインサーは騎士といっても、ジキドの軍師的な役割を務めることがほとんどなため、いつもジキドの側に付き従い、自ら前線に出る事はない。そのため格好も身軽な皮鎧に身を包んでいる事が多かった。
「はっ!ジキド将軍閣下、ここに」
「門と城壁の修復のほうはどうなっておる!?」
「それが……反乱軍の攻城兵器によって完膚無きまでに粉砕されておりまして、修復には数日を要すると推察されます」
グインサーの報告に、思わずジキドは舌打ちした。
「くっ!それでは長期間の籠城は不可能だな――それで、どのくらいで修復できる?」
「完全とまではいきませんが、木材を使用し、補強しながら煉瓦で固めるため、最低でも一週間以上はかかるかと……」
グインサーはジキドの顔色を見ながら恐る恐る『一週間以上』という言葉を口にした。本当ならもっとかかるかもしれないのだ。それも応急処置的なものにしか過ぎない。
「はっきり言え、本当はもっとかかるのだろう?――城壁の修復が完了するまで、強化型ボウガンやロングボウ(長弓)を駆使して敵を一切近づけさせるな!城門付近には、昼夜後退で完全武装させた突撃騎兵部隊と弓騎馬部隊を配置させ、すぐにでも敵の攻撃に備えるようにさせておけ!」
「ハッ!承知いたしました!」
グインサーは実直な返事を返すと、命令を実行に移すため早足にその場を去った。
「バーナードめ!魔法陣(ゲート)で補給を受けていただろうに、何をしておった!ゴルベリアス様の魔力を無駄にしおって!あの無能者めが!」
もし、ジキドが到着した後もバーナードが生きていたなら、その場で打ち首にしてやりたい気分だった。
このゲッセマネの砦は、難攻不落の大要塞として、ファルコン半島全土にその名を轟かせてきた。
城壁は三層からなる強固なものであり、砦の周囲は小川で囲ってあって、砦に入るには正面に位置する狭い幅の橋を利用するしかない。兵の最大収容人数は約3500人であり、首都アストレーゼから街道を利用して迅速にいつでも食料や水、増援の兵といった数々の補給を受けることもできる。
だが、補給線を絶たれては、いくら堅牢な要塞といえど食料と水、それに武器の備蓄が尽き、いつか兵が死に絶えるのは目に見えている。だからこそ、前任者のバーナードには、何としても補給線だけは確保してもらっておきたかったのである。
もうゴルベリアスが使う魔法、『転移の術』(テレポーテーション)によっての補給は期待できない。
ジキド達が出立する前ですら、ゴルベリアスは魔法の乱用のし過ぎで、精神力を極限まで削られ、骸骨のようにやせ細り、衰弱しきっていたからだ。
“あれ以上の魔法の乱用はお命に関わる。これ以上、陛下に無理をさせるわけにはいかん。でなければ騎士の名折れである!”
ジキドは覚悟を決めていた。
“指揮官が指揮官たるためには、兵達以上の危機に身を挺して、働きの結果をしめしてこそ立つ瀬があるというものだ……バーナードはそれを怠った。それができなければ、名だけの将軍など豚に食われて死ねばいい”
ジキドは、昔からの自分に対する訓戒の言葉を、頭の中で何度も繰り返していた。